「入職後の4~5月, 学生時代とのギャップを感じてつらいです」を読んで、研究室生活との比較

研修医の先生の入職後の4~5月に学生時代とのギャップによって体調不調やうつ状態になるという記事を見つけたので、研究室生活との比較をふまえて紹介します。いままでとの変化によってストレスを感じ、睡眠時間や休みの確保、体重の変化などに気をつけることが大切だという内容です。引用部分だけでも、読むと参考になると思います。

初期研修医のうち25%は研修開始後2ヶ月で抑うつ状態になるということがわかっています。

出典:志賀隆 国際医療福祉大学医学部 救急医学 レジデントノート 22(1): 156-157, 2020.

専門的に医学について勉強していて、医療的な知識を他の人よりももっているはずの、研修医でも25%は抑うつ状態になるということは自分としては衝撃でした。かなり割合が多いと思います。

うつの引き金になると考えられる研修医のストレスの原因には、3種類のギャップが影響するといわれています。それらは「生活ギャップ」「プロフェッションギャップ」「社会人ギャップ」です

出典:志賀隆 国際医療福祉大学医学部 救急医学 レジデントノート 22(1): 156-157, 2020.

ここでは研修医のストレス原因について、3種類に分類されています。筆者のような博士課程の学生には、関係なさそうな原因もありますが、あわせて考えていきたいと思います。

1つ目の「生活ギャップ」は生活リズムの変化です。勉強が大変だったとはいえ学生時代には自分の裁量がありました。ところが研修医になると、仕事の拘束時間が長い、当直で眠いのに働かなければならないなどの生理的なストレスがとても大きくなります。学生時代のように、週末の決まった休日や月単位の長期休暇もありません。長時間労働もよくあります。そして、患者さんを担当して命に責任をもつため同じ時間であっても密度がはるかに濃くなります。

出典:志賀隆 国際医療福祉大学医学部 救急医学 レジデントノート 22(1): 156-157, 2020.

この生活ギャップ、研究室に入った学生には同じようなストレスがあるのではないかと感じました。大学生も研究室に入ると、研究者のように扱われる場合が多いと思います。そして、それまで講義に出れば、他の時間はサークルなどに自由に使えたのに対して、研究室に入るとコアタイムといった必ず研究室で研究に参加しないといけない時間が長時間存在するという変化があります。自分が研究室に関する説明を聞いたときにはコアタイムが9時から21時という研究室もありました。1限から5限まで90分の講義を受けたとしても、9時~18時程度の拘束時間なのではないでしょうか。拘束時間が変化すると、生活リズムも変化して、ストレスになるので、研究室に入った学生は感じるストレスが大きくなると思います。

そして、研究室では長期休暇がほとんど無い研究室も多いのではないかと思います。自分の場合でも大学生のときは実質1.5ヶ月くらいの長期休暇が、8~9月と2~3月にありました。一方、研究室に入ると夏と冬の休暇が1週間程度に変化しました。さらに、ポスドクなど勤務している場合は有給休暇の制度や、有給休暇を消費するようにということもあるようですが、学生にはなかなかそういう制度がないのも悲しい部分です。(ポスドクでも休暇はとっているけど、研究室に来て仕事や実験をしているという悲しい実態は何度も目にしていますが)

ちなみに、私は違いましたが、生物の研究室ではマウスの世話で土日も研究室にいくといった場合があると聞いています。生物系の研究室は命に責任をもつというストレスも少し大きくなるのではないかと推測しています。

2つ目は上述した自分の理想や周囲に求められている姿と、現実のできない自分の姿ののギャップで「プロフェッションギャップ」、医学生は常に優秀であった人が多いです。でも病院で求められることは「効率的なコミュニケーション」「タスクの推敲力」「現場での学び」など今までと大きく異なります。そんななかで、同僚や先輩と比べたりして落ち込みます。

出典:志賀隆 国際医療福祉大学医学部 救急医学 レジデントノート 22(1): 156-157, 2020.

このプロフェッションギャップは博士課程にもおおいにあてはあまると感じました。研究室に入ってすぐの時は、同じ学年間で大きな力や業績の差はないと思います。また、研究室に入ってすぐなので、自分の理想というイメージがあまりなく、ギャップ自体を感じないとそれが、修士や博士課程に進むと、思うように結果がでなかったり、理想的な学会発表ができないといったギャップを感じる場面が徐々に増えていくと思います。また研究室や、知っている研究室の先輩に優秀な人がいれば、どうしても比較してしまい落ち込みもあると思います。また、博士課程に進学すると、学振によって他の学生と明確に実力を比較されるので、業績もうまく実らず、学振に落ちると、泣きっ面に蜂といった状態になります。(私もそういった部分があったと思います)

他にも、昇進がきっかけでうつ病になるという話も聞いたことがあります。昇進で仕事の内容が変わるということもあるのでしょうが、こういった理想と現実のギャップがストレスになっているのではないかと思います。

最後3つ目は患者さんや多職種など周囲の人に、たとえ文句を言われても怒ったりしない、遅刻をしないなど社会人としてのふるまいを求められる「社会人ギャップ」です。

出典:志賀隆 国際医療福祉大学医学部 救急医学 レジデントノート 22(1): 156-157, 2020.

これも1つ目の部分で触れた内容に生活リズムのギャップに近いと思います。遅刻をしないなどは、研究室では当たり前のように求められるところも多くあると思います。ただ博士課程は、共同研究を任さられたり、他の研究室の学生が共同研究に来た時の面倒を任せられたり、そういった場面で社会人としてのふるまいを求められる部分は多くなる場合はあるのかと思います。

個人でできる対策は

一番お勧めしたいこととしては、「睡眠時間の確保」「休みをとる」です。労働時間が長くなり睡眠時間が短くなると、抑うつ状態になりやすくなります。(中略)特に女性の研修医の先生においては「体重減少」は危険なサインだと考えています

出典:志賀隆 国際医療福祉大学医学部 救急医学 レジデントノート 22(1): 156-157, 2020.

私も医者から睡眠については毎回質問されます。熟睡感はあるか、夜中に目が覚めたりしないかということも聞かれます。意外と自分の睡眠時間を確認するということができていないという人も多いのではないでしょうか。スマホのアプリでも睡眠時間を測定するアプリがあったりします。少しでも不調を感じている人や、不安を感じている人は睡眠時間を測定してみてはいかがでしょうか。私は、最近fitbitのスマートウォッチを買いました。心拍数の測定の結果がスマートフォンに送られることで、睡眠時間が確認できます。自分の睡眠時間が思ったより管理できていなかったことに気づきました。私は女性ではないですが、体重の変化もストレスの影響が現れる一つの要素だと思います。私の場合は博士課程の間に体重が10 kg以上増えました。

組織としての対策も必須

ただ研修医自身が気をつけていていくことには限界があります。やはり、研修事務、臨床心理士、プログラム責任者などが

研修医が研修について振り返る場をつくっていく

多職種でアプローチをする

チームで情報を共有する

当直回数に制限を設ける

各科ローテーション内容などを組織で検討する

など初期研修プログラム全体で「研修医が最後まで安心して2年間のマラソンを走り抜けることができる体制」をつくっていくことが必要です。

出典:志賀隆 国際医療福祉大学医学部 救急医学 レジデントノート 22(1): 156-157, 2020.

博士課程も同じく3年間のマラソン、学部や修士のころもカウントすると5~6年間のマラソンといえるかもしれません。研究室の先輩やポスドク、大学の事務、そして教員の方にも、学生が安心して博士課程というマラソンを走り抜けられるような環境を作って欲しいと切に願っています。